クラフトマンを訪ねてー【コラム:東京都中野区新井編】
職人さんは朝早くクルマで仕事に出かけられることが多いですが、現場が休工などの事情で、店舗や事務所で作業しておられる場合があるので、私どもは実際に店舗や事務所に出向き、クラフトマンになっていただくお願いをする活動もしています。
本来は FACE TO FACE でお会いするのが、人としての礼儀だと考えているからです。
訪問先の紹介
東京都中野区新井ーここは賑わいあるJR「中野」駅の北に位置し、早稲田通りから西武新宿線の「新井薬師前」駅へとつながる古くからの商店街があります。また、中野区最大の寺院「梅照院」は有名で「新井薬師前」 駅名の由来とされています。
この日も午前9時頃より工務店・リフォーム店・畳店・表具店・インテリア店などを訪問しました。
ノーアポイントでのご訪問、また私はお客様ではないのでお忙しければ時間ないと断られて当然です。また相手の方のご事情をしっかり伺わねばご説明に入れません。
「何故ノーアポイントか」ですか? タウンページなどを見ても移転されていたり、ホームページなどなくともしっかり仕事をされている技術法人様があったり、電話では「アイビークラフト」の内容をお伝えできないからですね。「FACE TO FACE」の前段で電話やメールでは相手の方のことはわかりません。
「アイビークラフト」のサービスはDIY・小工事に特化しており、依頼者の方・職人さん双方にメリットがあるこれまでにないマッチングサービスなので、きちんとご理解いただきご納得の上、参加いただくべくご案内をしています。
丁度正午を過ぎた頃、店舗内に浴槽の展示などが目についたK社さまを訪問しました。出迎えていただいたのはK社長でした。
今回はK社長のお話について記載したいと思います。
浴室内を一からつくった時代
「浴室」は現在のマンション・一戸建てでは「ユニットバス」となっています。
つまり水回りメーカーの浴槽、シャワー水栓はもちろん浴室全体が既製品の組み合わせなのです。
ところが、何と「一般家庭に浴室が無かった時代」から、浴室内を一からつくっていた職人さんとお会い出来たのです。
K社長曰く
「昔、この辺りは(中野区)一般家庭に浴室はなく、銭湯だったのです。父の代に家庭に浴室を設けるようになり、父が浴室の職人をしていました。無かったものが出来たわけですから、とても画期的なことだったんですね。父はお客様のご要望に合わせて色々アイデアをご提案してお応えしていました。」
K社長も小さな頃よりお父様の仕事を手伝っておられたとのこと。
「えー?」の一言でした。今風の表現では将に「クリエイター」ではないでしょうか。
技術の高さ・技術の価値
浴室内を一からつくる場合を考えてみましょう。
浴槽の下部ベースとなるのは左官です。壁は塗装やタイル貼りの技術が必要となります。浴室なので当然空調、配管の作業なども出来なければなりません。
K社長はこれら多くの技術をもつ多技能職人なのです。
現在では「塗装」ひとつでも場所やモノにより様々であり熟練が必要です。例えば一級塗装技能士の資格をお持ちの方はスペシャリストです。
浴室内のみの塗装は同じ塗装かも知れませんが、多技能というのはゼネラリストとして、スペシャリストと共にそれぞれ技術の高さ・技術の価値があるのではないでしょうか。
「今はユニットバスになってしまったので、簡単に言いますとはめ込んで配管を通す程度なのです。正直、あまり仕事に面白みややりがいが薄れてしまいました。でも快適なものにはなっていますね。」と仰っていました。
また「これまでの経営を振り返って思うのは、時代の流れでユニットバス(既製品)に変わってきたところで、家族がいましたから東京ガスやメーカーさんと提携しないと小さな技術屋でしたので食べていけなかったわけです。父の技術を継いだのに、そこで強気になれなかったところが今思う自分の反省点ですね。」
ご家族をもちながら自分を通していける人は多くないでしょう。どんな技術法人・一人親方の職人さんも時代の変化・景気の変動を乗り切って思い通り仕事を続けるのは難しいと思います。
私も「もったいないを価値に変える」企業におり、新しいものに挑んでいく仕事なのでこのお言葉はとても印象的でした。強い志を持って前に進まねば悔いとなるという、人生の大先輩からの助言をいただいたように感じました。
技術を伝える
同じ浴室でも、ユニットバスには低コストで作れる良さがあり、在来浴室には自由にオーダーメイドできる良さがあります。
かつての住宅不足で大量に画一的な団地が建設された時代は終わりを告げ、近年は住宅ストックが豊富になり、新築住宅偏重から中古住宅の流通、活用をするという時代になりつつあります。
それに伴い、中古の住宅を購入して自分の好きなようにリノベーションをする方が年々増えています。
そして、ホームセンターや通販で材料を購入して自分の好みの住まいにしたい方も増加していますが、ご自分だけでうまくできず、プロの方に技術の指南を求めたいということで「アイビークラフト」を通して、実際にご相談があるのです。
そういった「自分で好きなようにやってみたい」というセルフリノベーションやDIYにチャレンジされている方に、社長の技術を役立てていただけませんか?とお願いをしました。
「なるほどね」とK社長。
「この事業(アイビークラフト)は良いもの思う。というのはね、貴方、一生懸命じゃないですか。でも今は親族の事情があって、少し期間が欲しいので、しばらく待っていただけませんか? 貴方はこの仕事続けるんでしょう? 落ち着いたら、たまには一緒に仕事したいので、また会いましょう。」
というお話しをいただきました。
技術の価値をエンパワーメントする
建設業界では、職人不足と共に職人の高齢化が深刻な問題になっています。
K社長のような方も、いずれ体力的にも安全管理的にも建設現場で仕事をすることは難しくなってくる時が来ます。
一方で、一般家庭では、ちょっとした修繕や小工事で困っている方や、DIYやセルフリノベーションにチャレンジしたくても「自分だけではできない」と、困っている方が大勢いらっしゃいます。
私どもは、アイビークラフトを通じて、技術を持つ方にその技術を活かす場を提供し、技術者としてエンパワーメントできる存在になりたいと願っています。
同時に、一般家庭のちょっとしたことに困っている方々の、力になっていただきたいと思っています。
K社長とのお話は何と2時間近いくに及びました。
たまたまその日はお時間があったのでしょうか。その間、色々お話しをしていただき、本当にありがたく思いました。
また折を見てK社長に会いに行こうと思います。