2026年、人手不足を原因とする企業倒産が統計開始以来最悪のペースで推移しています。
東京商工リサーチ(TSR)の集計では2026年上半期(1〜6月)の人手不足倒産は237件と、前年同期(172件)に比べ37.7%急増し、調査を開始した2013年以降はじめて上半期として200件台に突入、3年連続で過去最多を更新しました。
8月単月でも32件と前年同月の23件を大幅に上回り、8月として過去最多を記録、1〜8月の累計は333件と年間最多ペースとなっています。
帝国データバンク(TDB)の集計でも、2026年上半期の企業倒産5,335件のうち、人手不足倒産227件・物価高倒産556件・後継者難倒産312件がいずれも過去最多を更新し、業種別では小売業1,108件(うち飲食店473件)、建設業1,043件と、上半期として13年ぶりに1,000件超えという水準に達しています。
背景・原因
①「賃上げ倒産」という逆説
最大の特徴は、人手不足の”原因”だったはずの賃上げそのものが倒産の”引き金”になっている点です。
倒産理由で最も多かったのは「人件費高騰」で、前年同期比2.4倍に急増しました。
2026年の春闘では大手企業の賃上げ率が3年連続で5%台を確保、連合も賃上げ率5.01%を記録するなど、大企業主導の賃上げ圧力が下請け・中小企業にまで波及。
しかし大手と違って中小には「賃上げ疲れ」が広がっており、無理な賃上げで従業員を引き留めたものの資金繰りが息切れする企業が多い状況です。
②価格転嫁力の弱さ
賃上げ原資を確保する手段として本来望ましいのは価格転嫁ですが、賃上げ原資確保策として最も多いのは自社製品・サービス価格への転嫁(41.6%)で、次いで人件費以外のコスト削減(17.9%)、新製品開発等による収益力向上(17.5%)という調査結果があり、価格転嫁一辺倒でも限界があることがうかがえます。
人件費上昇分を価格に転嫁できない企業から順に淘汰されている構図です。
③業種の偏り(現場労働集約型が直撃)
業種別では建設業が最も多く65件、サービス業59件、運輸・通信業38件と続き、建設業が全体の25.4%を占め、次いで道路貨物運送業、老人福祉事業、飲食店、労働者派遣業が上位に並びます。
これらは「2024年問題」(建設・運輸の時間外労働規制強化)や介護報酬の抑制など、構造的に人手を確保しにくい業種と重なります。
正社員不足でも金融業が67.1%と最も深刻で、建設・運輸・倉庫など6業種で6割超となっており、不足感自体は業種横断的です。
④物価高との複合圧力
1〜6月の倒産件数は13年ぶりの高水準となり、物価高と人手不足が企業への淘汰圧力となっています。原材料・エネルギーコストの上昇と人件費上昇が同時進行し、体力の乏しい中小・零細企業を挟み撃ちにしている構図です。
⑤退職型倒産という別ルート
人件費高騰型だけでなく、1~8月累計で「人件費高騰」が175件(121.5%増)、「従業員退職」が81件(17.3%増)とそれぞれ過去最多を更新しており、賃上げできない企業ではそもそも従業員が流出してしまうという、賃上げの有無にかかわらず倒産に至る二重構造が生まれています。
今後の見通し
短期(〜2027年):
8月時点で年間最多ペースが続いており、2026年通期は前年(398件)を大きく上回ることがほぼ確実です。
最低賃金の継続的な引き上げ方針(政府目標は2020年代に全国平均1500円)が続く限り、体力のない中小企業から淘汰が進むトレンドは当面変わらないとみられます。
中期的な構造変化:
政府は中小企業の労働供給制約下でも省力化等を通じて生産性を向上できるよう、2029年度までの5年間で概ね60兆円規模の生産性向上投資を実現する方針を掲げており、最低賃金引き上げの影響が大きい業種や人手不足が深刻な業種向けに「省力化投資促進プラン」を策定するなど、政策的な下支えが強化される見込みです。
市場の”淘汰と再編”:
見方を変えれば、低賃金・過酷な労働環境で価格競争力を得ていた企業が市場から退出することで、価格競争が緩和される可能性も指摘されています。
短期的には倒産増という痛みを伴いますが、中長期的には業界内の適正な価格形成・賃金水準への収斂が進む転換点になるとの見方もできます。
対策(企業・政策の両面から)
企業レベル
- 生産性向上への投資が最優先: 中小企業白書でも省力化投資に取り組んでいる企業ほど賃上げを実施している割合が高いことが示唆されており、労働生産性の向上が人手不足倒産防止の最大の特効薬とされています。RPAやITツールによる業務自動化、標準化による属人化解消が急務です。
- 賃上げ以外の実質的な待遇改善: 資金体力が乏しい企業では、食事補助や住宅補助など非課税枠を活用した福利厚生で、企業負担を抑えつつ従業員の実質手取りを増やす方法も選択肢になります。
- 価格転嫁交渉力の強化: 原価上昇分を取引先に転嫁できる交渉力・ブランド力を高めることが、値下げ競争からの脱却につながります。
- 採用・定着の質的転換: 量を追う採用から、SNSでの職場環境の可視化やリファラル採用など、ミスマッチを防ぐ採用戦略への転換、入社後のフォロー体制強化が定着率向上に直結します。
政策レベル
- 価格転嫁環境の整備(下請取引の適正化、下請法の運用強化)
- 省力化投資への補助金・助成金の拡充
- 業種別の実情に応じた支援(建設・運輸・介護など人手不足が特に深刻な業種への重点支援)
考察
人手不足倒産の急増は、単なる「人が採れない」という採用難の問題から、賃上げそのものが企業の資金繰りを圧迫して倒産に至るという、より深刻な「構造的な収益力不足」の問題へと質的に転化しています。
物価高と人件費高騰の複合圧力の中で、生産性向上と価格転嫁力を伴わない賃上げは持続不可能であり、今後も当面は建設・運輸・サービスなど労働集約型業種を中心に、体力の乏しい中小・零細企業からの淘汰が続くと見られます。
企業側には省力化投資と価格転嫁交渉力の強化、政策側には価格転嫁環境の整備と生産性向上支援の両輪が求められる局面です。
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